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トキから振られた突然の話

Le 19/01/2024

トキから振られた突然の話。

それよりも今はご馳走に夢中な三津はうんうんと頷くだけで,話の内容は右から左。

「あんたはどっちが好みやの?」

「ん?里芋よりも南瓜が好きやな。」

ほっこりと炊かれて,口の中に広がる甘みが堪らないと頬を緩めてふにゃりと笑った。

「誰が煮物の好み聞いた。このど阿呆。https://www.easycorp.com.hk/blog/%e9%a6%99%e6%b8%af%e9%96%8b%e5%85%ac%e5%8f%b8%e6%95%99%e5%ad%b8%e9%96%8b%e5%85%ac%e5%8f%b8%e6%b5%81%e7%a8%8b%e9%80%90%e6%ad%a5%e6%95%b8/

呆れ顔のトキに容赦なく頭を叩かれた。

土方にもど阿呆とは言われた事がなかったからビックリだ。

「え?何の話?」

目を丸くして首を傾げた。

カチンと来たトキの目がつり上がって,じっと三津を睨みつけた。

「あんたの男の好みを聞いてんの!沖田さんみたいな人か斎藤さんみたいな人かって!」

「男の好み?」

訳も分からず罵倒され,いきなり何を言い出すかと思えば男の話。

この話が出たならば,間違いなく続く言葉は結婚。

「久しぶりに帰って来たのにまた縁談の話?」

顰めっ面で,見合いならしないとそっぽを向いた。

「今日斎藤さんと宗ちゃんと三人で手を繋いで帰って来たの見た時,どこの親子かと思ったわ。」

三津が帰って来た時に驚いた表情をしたのは,そのせいでもあった。

一瞬,三津が子供と旦那を連れて帰って来たように見えたから。

それが現実ならどんなに嬉しい事か。

「いい人おらへんの?」

「いい人ねぇ。考えとく。おばちゃんご飯おかわり!」

今は美味しくご飯が食べたいんだ。

トキの横に置かれたお櫃を引き寄せて,こんもりとお茶碗一杯にご飯をよそった。

功助とトキは目を丸くして顔を見合わせた。

初めて三津が前向きな発言をした。

今まで考えるなんて言葉すら聞けなかったのに。

トキの手料理をたらふく食べて,自分の部屋に戻って仰向けになり,ぼんやりと天井を眺めた。

「いい人か。」

すぐに浮かんだのは,涼しげな目元でやんわり微笑む桂の顔。どうしても桂の事を考えてしまう。

幾松が訪ねて来たあの日から。

『そう言えば,これ貰うきっかけは私が無理やりここに連れ込んだからやっけ。』

かんざしを手にしてうっすら笑みを浮かべた。

今思えば随分と大胆な事をした。

それでもって,怪我の手当てだなんてお節介な奴だったな。

『これ挿した姿を桂さんに見せる事ないんかなぁ。』

着飾った自分が,桂の隣りに並ぶ姿は想像つかない。

自分の部屋の落ち着く匂いで肺を満たせば自然と微睡む。

『会いたいや。桂さんに。』

自分に正直になった所で三津の瞼がゆっくり下りた。

次に目を開けた時には夜は明けていた。

かんざしを握り締めたまま,ぐっすりだった。

「よく寝たぁ。」

大あくびをしながら背伸びをして,さて今日は何しようか。

身支度を整えて,かんざしは懐に。

「げっ。雨や。」

店の戸を開けると雨の日特有の匂い。

湿気を含んだ重い空気と,どんよりとした空から落ちて来る雨粒。

「これじゃあ宗太郎と遊ばれへんやん。」

日頃の行いは善いはずなのに天に見放されてしまったか。

口をへの字に曲げてとぼとぼ奥に下がった。

せっかく帰って来たのに雨に降られるとはついてない

雨だから客足も疎らで,三津は暇を持て余した。

「三津,お遣い行って来て。どうせ暇やろ?」

「あぁその言葉すら懐かしい。」

感慨深げに目を閉じた。改めて帰って来たと実感。

「ぬかるんだ道で転びなや!」

トキの忠告を背中で聞いて雨の町へと出掛けて行った。

目と鼻の先にある旅籠に茶菓子を届けるだけ。

ちょっと歩きにくいけど秋雨の中も風流じゃないか?

水も滴るいい女だと一人でにやけながら歩いた。

「御免下さーい!」

「あら,みっちゃんやないの!いつ帰って来たん?」

出て来た女将に久しぶりとバシバシ肩を叩かれた。

お帰りの次に続いたのは,

「心配してたんよ?壬生狼の所で酷い扱いされてへんか。」

新選組の元に身を置くのを不安に思う気持ち。

やっぱり新選組の評判は相変わらずのようだ。

「大丈夫です!みんなが思う程悪い人たちやないんで。」

これ以上悪口を聞きたくはないから,茶菓子を手渡すとすぐに旅籠から逃げ出した。

その様子をずっと見られてたなんて三津は知らない。

 
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